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SPECIAL ONE それぞれの旅立ち 1













広い体育館は大勢の人がいるにも関わらず、静寂と緊張感に包まれていた。

小さな咳払いや微かな話し声も静かな会場全体に響きわたる。


卒業する学生を中央に、その両脇に大学の職員と来賓が、それぞれ整然と並んだパイプ椅子に座っていた。

前方のステージには黒檀製の立派な演台と、人の背の高さほどもある豪華なフラワーアレンジメント。
背後の壁には国旗と校旗が飾られている。


女性の声で開式を告げるアナウンスが響き、
全員が一斉に立ち上がる。


ピアノの伴奏に合わせて、日本国歌と校歌斉唱。

それが終わると、また一斉に
全員が席に着く。


ステージに大学の学長が姿を現して、演台に立った。
その横には女性職員。

60過ぎの歳のわりにはすらりとした体型、白髪交じりの髪に温和な顔立ちの学長は、時折笑顔を浮かべながら
体育館全体に眼を配っていた。



チャンミンは卒業生の席の最前列に神妙な顔付きで座っていた。

日本に来て、この大学に入学して4年。
さまざまなことがあったけれど、充実した素晴らしい4年間だった。 

その言葉通り、人生が一変した。

たくさんの仲間達に出会い、そのままの自分を受け入れて貰えて、
ようやく自分の人生を生きることができた。
チャンミンにとって、かけがえのない青春の日々だった。

たくさんの楽しかったシーンが、頭の中にスライドショーのように次々と現れる。
どのシーンでも、チャンミンは楽しそうに笑っていた。
その自分の笑顔が、楽しかった日々が、もうすでに懐かしい思い出に変わってゆく。

大学生の自分は、今日で最後。
卒業の喜びと、新しい生活への期待と不安、
この場所を離れる寂しさ……
さまざまな想いが胸に押し寄せてきて、校歌を唄う声が途中で詰まってしまった。


式典は卒業証書授与に移った。

各学部学科から代表で1人ずつ順にステージに上がり、学長から証書を受けとる。

社会学部観光学科の代表はチャンミン。

留学生で首席をとったのは歴代の卒業生の中でもチャンミンが初めてだという。

スポーツ科の学生の授与が終わり、
続けて名前を呼ばれ、チャンミンはスッと立ち上がった。

大股で歩き、五段ほどの階段を軽快に登ってステージに
立った。
長身の引き締まった身体をダークグレーのスーツにつつんだ颯爽とした姿に体育館がどよめく。

若々しく溌剌とした立ち姿とはっきりとした整った顔立ち、
人の視線を惹きつける外見は、歳を重ねるごとに逞しく成長し、かつ美しさを増していた。


深々と一礼して、学長から証書を受けとる。

正面を振り返った顔は、少し緊張した面持ちのなか、誰の眼にもキラキラと輝いて見えた。


その立派なチャンミンの姿を、ユノは教員席の末席に座り、誇らしい思いでじっと見つめていた。

この場所で、チャンミンの勇姿を見ることができる幸運を神様に感謝し、込み上げてくる感動に身体を小さく震わせた。


チャンミンはステージから降りながら、体育館の中に視線を巡らせた。
教員席の一番奥にユノの姿を見つけて、思わず目を細めた。
視線が重なった瞬間、ユノが小さく頷いて目尻を拭うのを見て、
チャンミンもまた胸に込み上げてくる感情に瞼が熱くなり、涙を堪えるために眼を見開いて早足で席に戻った。



すべての式次が終わり、卒業生達は拍手に送られて体育館を出た。


ポンクルとマーク、テイルと話しながら在校生や家族がが待ち受ける広場に出ると、

「センパーイ!」

F寮の後輩達がすぐに駆け寄ってきた。

F寮生はみな特別な絆で繋がった大切な仲間。
彼らと過ごした日々は賑やかで楽しくて、青春の煌めきに溢れていた。
多国籍軍の彼らはお互いを尊重し理解しあい、
特別な結束力で異国での生活を助け合って乗り越えてきた。

素晴らしい先輩達と可愛い後輩達。

F寮という確固とした生活の場があったからこそ、充実した大学生活が送れたと言って間違いなかった。


「先輩、卒業おめでとうございます!」

3年生のルーカスが声をあげ、それを合図に全員が
「おめでとうございます!!」
と大声で言って拍手がおこった。

チャンミン達卒業生は、みな和やかに笑っていた。

「これは僕達在校生からの卒業祝いです。受け取ってください!」

ルーカスがチャンミンにリボンのかかった小箱を渡す。
同時に、ポンクル、マーク、テイルにも同じものが手渡され、
女子にも色違いの包装紙の箱が手渡された。

その場で包みを開けると、中身はお揃いの腕時計だ。

「ありがとう!大切に使わせて貰うよ」

それぞれが自分の腕に嵌めて嬉しそうに眺めている。

2年前、ユノとドンヘとジョニーが卒業する年に、記念品に腕時計を贈った。
それがとても好評で喜ばれたので、それ以来自然と卒業記念品は腕時計と定着していた。

チャンミンとポンクルはお互いの腕を見せあって笑った。
シルバーの金属製のベルトに、濃紺の文字盤。
ユノ達に送ったブランドと同じものだった。

「これならユノ先輩ともお揃いじゃない?ルーカス達、チャンミンに気を利かせたつもりだね」

そう言ってポンクルがニヤリと笑う。

「うん。ユノも愛用中だよ。こないだドンヘ先輩とテレビ電話で話した時も腕に嵌めてし」
チャンミンはニコニコしながら自分の腕を見つめる。

「それは嬉しいなぁ。僕もさっそく今日から使お!」

ポンクルが言って、俺も俺も、とテイルとマークが応えた。

同級生のポンクルは、チャンミンにとって初めてできた大切な親友で、
何でも話せて相談に乗ってくれる心強い存在だ。
マークもテイルも、女子寮の4人も、
彼らがいたからこそ、誰ひとり欠けることなく全員で卒業式を迎えることができた。

この先、それぞれに向かう場所は違っても、
この確かな絆はきっと一生続いてゆくだろう。


「先輩、写真撮りましょう!」

後輩達に囲まれて撮影会が始まった。
誰もが笑顔でポーズをとる中、女子の後輩達がイェリやウェンディにしがみついて泣いている。
なんだかその光景を見るだけで、チャンミンも胸が詰まった。


「先輩……淋しいです……」

ふと見ると、ポンクルに抱きついて3年生のチソンが泣いていた。隣でスチョンも目尻を擦っている。
彼らはポンクルと一緒にダンスユニットを組んでいた。
学祭で踊って以来あちらこちらのイベントに呼ばれるようになり、実は学内一有名な3人だった。

「たまにはF寮に遊びにきてくださいね」
「これからも先輩と一緒に踊りたいです……」
「チソン、スチョン。仕事に慣れて落ち着いたらまた一緒に踊ろうな。それまで練習サボるなよ?」
「はい。絶対……約束ですよ?」

可愛い顔を涙でぐちょぐちょにして泣くチソンを、ポンクルは愛おしそうに抱きしめて優しく宥めていた。

チャンミンはその様子につい貰い泣きしてしまい、
近くにいたルーカスに涙を拭う所を見られてしまった。

「もう、先輩ったら……本当可愛いんだから」
なんて、ルーカスにからかわてハグされて、慌てて押し退けてまた笑われてしまった。

この後輩達とも今日で最後、
そう思うと、ちょっと生意気なルーカスにも怒る気になれず、
もう一度、今度はチャンミンの方からルーカスを抱きしめた。

「これからF寮のこと、よろしく頼むね」

そう呟くと、

「……はい。チャンミン先輩、今までありがとうございました……」

ルーカスには珍しく殊勝な声で答え、
目尻と鼻先を赤くして、その顔を隠すように俯いた。


校舎や体育館をバックに全員で記念撮影をした。

こうして全員が集まるのは、これが最後かもしれない。
そう思うと名残惜しくて、誰ひとりその場を離れようとしなかった。


やがて待ちわびたマークの両親が彼を呼びに来た。

卒業式に出席するために遠くカナダから来日していた二人は、寮生に丁寧に挨拶をしてまわった。

「それじゃあ、みんな元気でね」
「うん、マークも、仕事頑張れよ」
「ああ、お互いにね。休みには会おう。遊びに来てよ」
「うん、電話するからな!」
「またなー!」

それぞれと挨拶を交わして、マークは両親と共に大学を去っていった。


マークは福岡の中心部の英会話学校の講師として就職する。

マークの国籍はカナダだが、母親は日本人だ。
その実家は福岡で今もそこにはマークの祖父母が暮らしていた。
学生の間も休暇のたびにマークは祖父母のもとに帰り、孫らしく二人に甘えていた。
ひとり娘を外国に嫁に出した祖父母は次第に年老いて、口には出さずとも淋しさと心細さを募らせていただろう。
その事を知るマークは日本に残り、二人と一緒に暮らすことを選んだのだっだ。
優しくて思いやりのあるマークらしい選択だった。



卒業式の翌日には、韓国に帰るテイルを見送った。

テイルの家は職業軍人の家系で、軍人になることを逃れるために日本の大学に留学して来た。
堅苦しく息の詰まる家と、将来を勝手に決められることが嫌で、国には帰るつもりはないと言っていたのに、
テイルは卒業して国へ戻り、すぐに兵役に行くのだと言った。

「日本に来て、F寮で暮らしてみて、世界は広いんだなって改めて感じたんだ。俺は今まですごく狭い世界の中で生きてきたんだって思い知った。
チャンミンやユノ先生、ポンクルと出会って、
いろんな国の仲間に出会って、世の中にはいろんな人間がいて、人間の数だけ違う考えもあるんだって解ったんだ」
テイルは初めて会った頃よりも柔らかくなった面立ちに凛とした決意を秘めていた。

「いろんなこと、変わらなきゃいけないこと、たくさんあると思う。閉鎖的で封建的で、時代にそぐわないことをいつまでもそのままにしていたら、いつかはダメになってしまうよな。
俺は今まで避けて通ることばかり考えてたけど、
一度内側から見てみようと思うんだ。
兵役に行ってみて、自分の眼で確かめてみる。
実際に体験してみれば、もしかしたら俺にも何か出来ることが見つかるかもしれないだろ」

そう言って少し楽しそうに笑うテイルに、チャンミンは男らしい逞しさを感じた。

「チャンミンのおかげだよ。チャンミンの一途なところとか、何事にもめげないしぶとさとか、本当スゲーなって感心してたから」
「それってバカにしてる?」
「まさか、本気で言ってる。
だからさ、チャンミン達がいつの日か、帰ってもいいなって思えるような国にしたいって思ったんだよ」



テイルは恋人のイェリと一緒に、韓国へ帰った。
兵役から戻ったら結婚するつもりだという。

イェリを含めた4人の女子は、全員が国に戻った。
女子の場合は家族の反対もあって、なかなか外国に残ることは難しいようだった。


卒業生で最後まで寮に残ったのはポンクルとチャンミンだった。
全員を見送ってから、二人はそれぞれの新居に移った。

とは言え、卒業前にほとんどの荷物は移動済みで、身の回りの品と着替えを詰めたキャリーバッグひとつだけの引っ越しだ。


「じゃあね、チャンミン」

「うん、シオン先生によろしく」

「うん、ユノ先生にもよろしくね」

ちょっとそこまで出かけるような口振りで、二人は寮の前で別れた。


ポンクルがキャリーを牽いて少し歩くと、すぐに黒のスポーツタイプの高級車が静かに停まった。

運転席から降りてきたのはシオン先生で、
キャリーバッグをトランクに押し込んで、助手席のドアを開く。

「ありがとう」
と、ポンクルは微笑み、助手席に乗り込んだ。


ポンクルはシオン先生のマンションで暮らす。

そして本人の希望通り、テーマパークのイベント部門に就職する。
ダンスユニットでの活躍や知名度もあり、パーク内のショーやイベントのスタッフとして早くから内定を貰っていた。
実際にステージに立ってダンスを披露して、いずれは振付けや演出も任されることになるだろう。

ポンクルには、お金を貯めていつかは日本で自分の店を持つという夢があったが、
それもシオン先生という後ろ楯もあり、そう遠くない未来に実現するだろうと、チャンミンは思っていた。


「チャンミン、送ろうか?」

チャンミンの横に車を停めて、シオン先生が声を掛けてきた。

「大丈夫です。すぐ近くですから、散歩がてら歩いて行きます」

チャンミンが答えると、

「そうかい? じゃあ、ユノ先生によろしく」

シオン先生は笑って言って、車はゆっくりと遠ざかって行った。


二人を見送って、チャンミンはゆっくりと歩き出した。

ふと立ち止まり、振り返る。


4年間を過ごしたF寮をじっと見つめた。

たくさんの思い出が詰まった、大切な場所。

ポンクルやマーク、テイル、
優しくて頼もしかった先輩達、可愛い後輩達のひとりひとりの顔を思い浮かべる。

そして、何よりも大切な、最愛の人
チョン ユンホ

ユノと出会えたのもこの場所だった。



「ありがとう……」


チャンミンは小さく呟いて、F寮に向かって深々と一礼した。



















今日は大雨のため、仕事は休みになりました。昨日もお昼までで帰宅しました。
今現在(午後2時)雨は小降りになりましたが、いまだ台風のような強風が続いています。
大雨特別警報が出ていましたが、午後になって大雨警報に変わり、漸くピークが過ぎたようです。
熊本地方の被害の甚大さには驚くばかりです。
私の住む場所は道路が水没したりで移動が出来なくなりましたが、人的な被害は今のところはないようです。
まだこれからも雨はつづきそうです。
皆さまもお気をつけて、
大きな被害がありませんようにお祈りいたします。



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Black Pearl

Author:Black Pearl
はじめまして。BlackPearlと申します。東方神起のふたりが大好きで、大好きで、久しぶりに書き始めました。心ときめく日々を与えてくれるふたりに感謝💕この想いを共有してくださる方、よろしくお願いいたします。