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SPECIAL ONE #45













金曜日の夜、僕はドンヘ先輩と二人で話をした。

小一時間、二人きりで、
ドンヘ先輩は僕の話を真面目に聞いてくれて、誤魔化すことなく、きちんと答えてくれた。



『憧れるのではなく、憧れられる男になれ』



ドンヘ先輩の言葉を何度も思い出し、引き出しては反芻した。

ユノ先輩の葛藤や不安ごと抱きしめることのできる、優しさと逞しさと、包容力のある男。

僕はまだ大学生になったばかりの世間知らずで、
ユノ先輩より年下で、
身体だって身長が高いだかりのヒョロヒョロで、逞しさの欠片もない。

だけど、僕は、ドンヘ先輩に向かって宣言した。

必ずユノ先輩を振り向かせてみせる、と。

とても無謀な、大それた事だとわかってるけど、
僕はまだ、そう簡単には諦めたくない。
僕にやれることをやって、精一杯足掻いてみる。
諦めるのはそれからでいい。

ここまで来たんだ、何もしないで後悔だけはしたくない。

いろいろと考えるほどに興奮して目が冴えてしまい、なかなか眠れなかった。


夜中の2時をまわった頃、
寮の先で車が停まる音がした。

僕は慌てて身体を起こしたけれど、
窓辺に行って外を覗くことはできなかった。

すぐにエンジン音が遠ざかり、
少しして、階段を昇る足音が寝静まった寮に響く。

部屋の天井から、微かにドアを閉める音が降ってきた。
カタッと、一度だけ何かの音がして、それっきり静かになった。

戻ってきたユノ先輩に少し安堵し、
それと同時に、焼けるような熱い痛みが胸を襲った。

どんなに悔しくても、今の僕にはどうすることもできない。


必ず、


必ず……



天井をじっと見上げたまま、僕はいつの間にか眠っていた。






翌日、ドンヘ先輩との話がどうなったのか聞きたがるポンクルに、僕は大まかに説明した。

「そうか。結局、ユノ先輩の相手は分からないままか」

「うん。訊いてもドンヘ先輩が教えるわけないし、正直言うと、どういう人なのか知るのも怖かった」

「まあ、ね…… それでユノ先輩の好みのタイプ、だいたい解るからな」

「僕と全然違う外見とかだったら、それだけで落ち込みそうだよ」

「大丈夫。チャンミンは充分にカッコいいし可愛いから自信もって!」

「その、可愛いっての、やめてくれる?
僕は男らしくなりたいんだから」

僕は口を尖らせて抗議した。

「あのさ、ドンヘ先輩の言った男らしさって、外見じゃなくて中身の問題だと思うよ」

「そんなことわかってるよ。だけど、見た目だって大切だろ?
ポンクルだってすごく気にするじゃないか」

「フフフ、確かに」

そう言って微笑む顔は女子も顔負けの美しさだ。

人間、もちろん中身が一番大切だけど、それに相応しい器も必要だと思う。
心が美しい人は、その美しさが外側にまで滲み出てくるように思うのは僕だけじゃないはずだ。
ユノ先輩やドンヘ先輩を見ていると、本当にそう思えてくる。

今までの僕は、外見などにはまったくの無頓着だった。
人を好きになって、僕はそういう当たり前のことに改めて気づいたのだった。








「ほら、チャンミン君頑張れ、あと5回!」

森田さんの声が飛ぶ。

4、3、2、1、

「はい、終了!よく頑張った」

はぁはぁ、と肩で息をする僕。
ラバーマットの上に大の字になって身体を投げ出した。

「じゃあ、後はランニングマシンね。ゆっくりでいいから30分走って」

30分?

僕を殺す気か?

ゆるゆると立ち上がり、マシンに乗ってなんとか走り出した。

隣ではポンクルが走っている。
汗はかいてるけど平気な顔だ。


月曜日の放課後、僕とポンクルはジムへ行った。

「お、さっそく来たな。メニューできてるぞ」

森田さんが満面の笑みで迎えてくれた。


森田さんが僕のために考えてくれたのは『めざせ細マッチョ』メニュー。
初心者の上運動不足の僕に合わせて「全部軽めにしてるから大丈夫」という言葉に安心して始めたけれど……

僕は初日から心が折れそうだ。

ベンチプレス10回×3セット。
30キロと女子なみの重量でさえも、すぐに腕がプルプルと震えだし、最後の方はきちんと上まで挙げられなかった。
それから、スクワット。これは何とかできた。
次のデットリフト。これがまた重い。
床に置いたバーベルを両手で持って、背中をゆっくりと起こす。背筋と体幹を鍛えるトレーニングだ。

やっと最後のクランチ(腹筋運動)までたどり着き、僕はもう息も絶え絶えだった。


「スクワットとクランチは家でもできるからね。10回×3セット、軽くでいいから毎日続けるように」

ゆっくりした速度で何とか足を動かす僕の横に来て、森田さんは笑いながら言った。
すごく楽しそうに見えるのは僕の気のせいか。

ポンクルは筋肉をつけるよりもスタミナをつけ、体幹を鍛えるためのメニューだから、僕とは内容も違う。
だけどあきらかにポンクルの方が負荷も回数も多くて大変そうなのに、どれも軽々とこなしていたように見えて僕はなおさら凹んでしまった。

何とか30分間走りきり、ヘロヘロな状態でマットに横たわった。

「お疲れさん。終わったら必ずマッサージして、疲れを残さないように」
そう話しながら森田さんは僕のふくらはぎを揉んでくれる。
ああ、気持ちいい。
ピクピクと小さく痙攣していた筋肉がゆっくりと解れてゆく。

「チャンミン君。トレーニングはキツいよ。特にあまり身体を動かしてなかった君には辛いだろう」
「はい、僕、やれますかね……?」

僕の弱気な声に森田さんは笑った。

「大丈夫さ。暫く続ければ身体が慣れてくる。筋肉が育った分楽になる。
その時は、今よりも少しハードなメニューに変える。
それにも慣れたら、また少しハードにする。
その繰り返しだ」
「じゃあ、ずっとキツイままじゃないですか」
「あたりまえだろ。キツいことをやらないと身体は鍛えられない。筋肉は育たないんだ。
簡単にできること、楽なことをいくらやっても、それは何もしないのと一緒だ。
今よりも一歩でも前に行く。鍛えるとはそういうことだ」

森田さんは僕の肩をポンと叩いて、
「はい、おしまい」
そう言って立ち上がった。


僕とポンクルは週に2回、月曜日と金曜日にジムに通うことになった。
森田さんにお礼を言って、僕達はジムをあとにした。

時刻は6時過ぎ。
武道館を覗くとテコンドーの練習の真っ最中で、
ユノ先輩とドンヘ先輩は、それぞれに後輩の持つミットを蹴っていた。


さっきの森田さんの言葉を思い出す。

『簡単にできること、楽なことをいくらやっても、何もしないのと一緒。
今よりも一歩でも前に行く。それが鍛えるということだ』

真剣な表情で練習に取り組む二人をみて、森田さんの言葉をもう一度噛みしめる。




今よりも一歩でも前へ……










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Black Pearl

Author:Black Pearl
はじめまして。BlackPearlと申します。東方神起のふたりが大好きで、大好きで、久しぶりに書き始めました。心ときめく日々を与えてくれるふたりに感謝💕この想いを共有してくださる方、よろしくお願いいたします。